臨床薬理の進歩 No.45
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方  法短縮が認められたことを報告している3)。そのため、5年生存率がわずか8%といわれる進行期膵癌において、その予後にがん悪液質が関与していることは明らかであり、膵癌患者の予後向上のためにはがん悪液質への治療介入が必要不可欠であると考えられる4)。 これまでがん悪液質に対する治療は栄養指導、リハビリテーションを中心に行われており、一方で薬学的介入は有用な手段がなく進んでいなかった5)。2021年4月、国内初となるがん悪液質治療薬アナモレリン塩酸塩(エドルミズ®)が世界に先駆けて上市され、肺癌、胃癌、大腸癌、そして膵癌に対し適応を取得した。アナモレリンは脳下垂体にあるグレリン受容体に選択的に作用する新規の経口グレリン様作用薬であり、体重、筋肉量、食欲および代謝を調節する複数の経路を刺激する。国際第Ⅲ相試験では除脂肪体重の増加や食欲におけるquality of life (QOL) の増加を示した有望な薬剤である6)。しかしながら、アナモレリンの国内外の臨床試験は主に非小細胞肺癌患者に併発するがん悪液質を対象に展開された背景があり、膵癌悪液質の症例数は5例のみであった7)。最新の膵癌診療ガイドラインにおいても、膵癌患者の悪液質に対してアナモレリンの使用を提案されているが、膵癌患者における検討が十分揃っていないことから、エビデンスレベルは非常に弱いとされている。また非小細胞肺癌患者における臨床試験の結果から、アナモレリンの治療効果には大きな個人差がみられることが分かっているが、その要因については未だ明らかにされていない。そのため膵癌患者に対するアナモレリンの治療効果の追跡や、安全性の確認、そしてアナモレリンの治療効果に影響を与える因子の探索など臨床薬理的課題は山積しており、市販後の実臨床におけるデータの集積、そして研究が期待される。上記の背景から、我々は膵癌患者におけるアナモレリンを用いたがん悪液質治療のエビデンス構築のため、治療効果および安全性を追跡する前向き観察研究を実施し、その結果について報告する。対象患者 2021年7月から2023年8月までに九州大学病院にてアナモレリンを導入した切除不能膵癌患者23名を登録した。対象患者には本研究の説明を行い参加について書面同意を得た。登録患者はアナモレリンの適応条件である過去6ヶ月以内に5%以上の体重減少と食欲不振があり、かつ次の①~③のうち2つ以上を満たしていた(①疲労又は倦怠感、②全体的な筋力の低下、③次の条件の1つ以上該当: Albumin(Alb)<3.2 g/dL、C-Reactive protein(CRP)>0.5 mg/dL、Hemoglobin(Hb) <12 g/dL)。本研究は、九州大学医系地区部局ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会の承認を得て実施した (承認番号 : 898-00) 。有効性評価および方法 本研究の主要評価項目は、アナモレリン内服中のベースラインからlean body mass(LBM)の変化量、副次的評価項目は、体重、quality of life(QOL)アンケート(QOL questionnaire for patients treated with Anticancer Drugs, QOL-ACD)スコアの変化量とした。 体組成測定は、体成分分析装置(Inbody770、Inbody Japan Inc.)で測定した。QOL-ACDは患者が1から5のスケールで評価する自己評価尺度であり、4つの領域(活動性、身体状況、精神・心理状況、社会生活)で構成される21項目とフェイススケールの計22項目からなる8)。食欲・体重変化を評価するQ8「食欲はありましたか」、Q9「食事がおいしいと感じましたか」、Q11「痩せましたか」に加え、各項目の合計点数を算出した。血中サイトカイン・蛋白測定 血漿中Insulin growth factor-1(IGF-1)はHuman IGF-I/IGF-1 Quantikine ELISA Kit(R&D Systems、Minneapolis、USA)、血中total ghrelin、leptin、C-peptideはBio-Plex Pro human Diabetes 2

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