臨床薬理の進歩 No.45
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総  括活性を指標とした場合、エリスロマイシンやクラリスロマイシンによる阻害の影響が、テストステロンとミダゾラムの間で異なって観察される可能性は否定できない。実際、Yangらは、in vitro DDI試験において、フルコナゾールは、CYP3A4によるミダゾラムの1-水酸化活性を4-水酸化活性よりも12倍強く阻害することを報告しており10)、指標とする代謝経路によって相互作用の程度は異なって観測される可能性があることから、アミノ酸置換の影響についても異なって観測される可能性は残されている。 CYP3A4.7(Gly56Asp)においては、野生型と比較して阻害剤や基質の種類に関わらずKI値が低下(阻害強度が増強)した。Gly56Aspは、ヘムには近接していない位置であるが、glycineから親水性の高いaspartic acidへの置換であるため、阻害剤との水素結合の増強などにより阻害剤の親和性が変動した可能性がある。また、このGly56Aspは、酵素の不安定性を引きこすことが報告されており11)、この構造不安定性が阻害剤による不活性化を促進した可能性も否定できない。 CYP3A4.2(Ser222Pro)は活性中心から離れた helix FからGの間においてmembrane interaction loopに位置している。本研究においてCYP3A4.2(Ser222Pro)に対するエリスロマイシンのKIは、ミダゾラム代謝で評価したときは野生型の約1.68倍、テストステロン代謝で評価したときは野生型の約0.65倍と、両基質間で異なる変動を示した。一般的なMBIモデルに基づけば、KIは阻害剤固有の値であり、変異の影響は基質に依存しないと考えられる。今回のこの相反する現象の原因は不明であるが、1つの可能性として、阻害剤と酵素の反応中間体や”不活性化”した酵素分子に、一定の基質代謝活性が残存しており、これに対する変異の影響の違いが寄与していることが挙げられる。我々は、CYP3A4野生型において、エリスロマイシンのMBIにおいては、酵素は完全には不活性化されず、残存活性が存在する可能性を報告している8)。MBIを含むTDIにおける残存活性の存在については、Yadav Jらもこれに着目し、numerical methodを用いてpartial inactivation modelやquasi-irreversible inactivation modelを用いた詳細な解析を実施している12)。また、酵素に部分的な活性が残存する理由として、阻害剤がアポプロテインに対してcovalentに結合することが報告されており13)、たとえ酵素のある部分に阻害剤が不可逆的に結合していても、基質が酵素活性中心にアクセスできる余地が残されているのかもしれない。本研究においては、エリスロマイシンによるMBI下においてもCYP3A4.2(Ser222Pro)に残存する代謝活性がミダゾラムとテストステロンで異なっており、KIが異なって観測された可能性が考えられる。この点については、より長時間のプレインキュベーションを行い、残存活性を含めた二相性の解析を実施することで明らかになるかもしれない。 本研究において観察されたCYP3A4.16(Thr185Ser)におけるKI値の上昇は、エリスロマイシンやクラリスロマイシンを含む様々なCYP3A4基質に共通する親和性の低下として説明されるかもしれない。すなわち、Sevrioukova らは、E helixに存在するThr185とF helixのPhe 203との相互作用が基質との結合に重要な役割を果たしていることを報告している14)。実際CYP3A4.16ではミダゾラムおよびテストステロンのみならずニフェジピンやカルバマゼピンのVmax/Kmも大幅に低下している15)。よって、CYP3A4の基質の多くは、この位置の変異によりその基質結合に影響を受けると考えられ、この構造変化がエリスロマイシンおよびクラリスロマイシンのヘムへの親和性を低下させた可能性がある。 本研究よりエリスロマイシン、クラリスロマイシンは、各variantsのミダゾラム 1-水酸化活性に対し、濃度およびpreincubation時間依存的な阻害を示し、その際の阻害キネティクスパラメータは、変異型分子種間で異なった。この変動のパターンをテストステロンを基質とした場合と比較した結果、149

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