臨床薬理の進歩 No.45
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*1 YOSHIKURA NOBUAKI 吉倉 延亮*1 はじめに要   旨目的 Idiopathic sporadic ataxia(ISA)(本邦での特発性小脳失調症に当たる)において、自己免疫異常をもつ患者の臨床的特徴を明らかにし、治療法の確立を目指す。方法 ISA 67例において、ラット小脳凍結切片を用いて免疫組織染色を行い、抗小脳抗体を検出した。多系統萎縮症、遺伝性失調症、健常者を対照とした。結果 ISAにおける抗小脳抗体陽性率は、対照に比べて有意に高値であること、免疫組織染色においてneuropil patternを呈するISA患者は純粋小脳失調を呈しやすいこと、抗小脳抗体陽性ISAでは治療反応性が期待できることを示した。結論 上記の結果から、抗小脳抗体を伴う小脳性運動失調症患者を対象にした「特発性小脳失調症に対する免疫療法の有効性及び安全性を検証するランダム化並行群間試験」を開始しており、試験の速やかな完遂を目指していきたい。岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野不明の小脳性運動失調に対して、これまで、本来は神経病理学的診断名である皮質性小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy:CCA)という名称が使用されてきた。 近年、CCAに変わって、国際的にはIdiopathic sporadic ataxia(ISA)4,5)という病名が使用され、本邦ではそれと類似した疾患概念としての特発性小脳失調症(idiopathic cerebellar ataxia;IDCA)6)の診断基準が提唱されている。しかし、これらの症例の病態は均一ではなく、多系統萎縮症(multiple system atrophy;MSA)の早期例(小脳系のみの変性を示す臨床亜型;MSA-C)、稀な遺伝性疾患、そして自己免疫性疾患などの多様な疾患が混在する可能性がある。ISAやIDCAの診断基準にはこれらのKey words:自己免疫性小脳性運動失調、特発性小脳失調症、抗小脳抗体、免疫療法、特定臨床研究Approaches to elucidate autoimmune pathogenesis and  病態に免疫が介在して起こるさまざまな神経症候の中で、小脳性運動失調が前景に立つものを自己免疫性小脳失調症と呼ぶ1)。本疾患は、傍腫瘍性小脳変性症(paraneoplastic cerebellar degeneration; PCD)の患者血清から細胞内抗原を認識する抗体が同定され、ついでシナプス膜表面抗原に対する抗体が同定されていく中で、疾患概念が形成されていった2)。近年、新規の抗神経抗体が次々と同定されるにつれ、比較的緩徐な経過を呈し、変性疾患と類似した経過や症候を呈する場合があることに注目が集まっている3)。一方、このような孤発性で成人以降に発症し、緩徐な経過をたどる、原因establish treatment in cerebellar ataxia153小脳性運動失調症における自己免疫異常の解明と治療法の確立に向けたアプローチ

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