臨床薬理の進歩 No.45
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考  察 本研究が明らかにしたのは、次の三点である。第一に、ISAと臨床的に診断された患者において、約半数において免疫病態が関わっている可能性が示された。これまで、抗小脳抗体の陽性率は、遺伝性運動失調症患者と比較して、原因不明の小脳性運動失調症患者では有意に高いことが報告されてきた10)。本研究においては、免疫組織染色によってISA患者の約45%で抗小脳抗体が陽性となり、約18%で細胞表面抗原に対する抗小脳抗体が検出された。これまで、変性疾患として扱われてきた症例の中には、抗小脳抗体が検出され、免疫療法で改善しうる患者が含まれていることが明らかとなり、今後は、有効な治療法の確立が必要と考えられた。 第二に、neuropil patternを示すISA患者では、純粋小脳失調を示すことを明らかにした。このことから、特に純粋小脳失調を示すような症例において、免疫組織検査による抗小脳抗体のスクリーニングを行うのが良いと考えられた。特に、細胞表面抗原に対する抗体が出現している場合(neuropil pattern)には、免疫療法によって症状の改善が期待できる点から、このような患者の臨床的特徴を明らかにした意義は大きいと考えられた。 第三に、免疫療法が抗体陽性のISA患者の小脳失調症を改善する可能性を示した。既報では、PCDではない自己免疫性小脳性運動失調症患者や細胞表面抗原に対する抗神経抗体が出現する患者、GAD抗体陽性患者において免疫療法の有効性が指摘されてきた11)。細胞表面抗原に対する抗神経抗体を有する自己免疫性小脳性運動失調症患者14例の免疫療法への治療反応性が報告されており、免疫療法後に10例の患者が改善した(10/14、71.4%)12)。自己免疫性小脳性運動失調症への免疫療法の治療効果は、小脳の萎縮の有無や小脳予備能の残存の程度に影響される可能性があるが、neuropile pattern呈する場合、ISA患者は免疫療法に反応する可能性がある。したがって、自己免疫性小脳性運動失調症患者においては、特にneuropil patternを示す患者において、不可逆的な神経細胞障害を起こす前の早期に、有効な免疫療法を行う必要があると考えられる。 本研究の限界としては、ISA患者の数が多くはなかったこと、ISA患者の血清サンプルにおいて、過去に報告された他の抗小脳抗体まで陰性を確認できていないこと、血清のみを用いて免疫組織検査を行ったことが挙げられる。免疫療法が奏効する可能性のある患者を特定するためには、血清でスクリーニングした後、脳脊髄液でも確認を行う必要があると考えられる。特定臨床研究 特発性小脳失調症に対する免疫療法の有効性及び安全性を検証するランダム化並行群間試験(jRCTs031200250) これまで述べてきたように、免疫病態を有するISA(本邦でのIDCA)患者に対する治療法の確立が必要と考えた。私たちは、抗小脳抗体陽性IDCA患者を対象として、ステロイドパルス療法の有効性と安全性を検証するために、多施設共同医師主導治験「特発性小脳失調症に対する免疫療法の有効性及び安全性を検証するランダム化並行群間試験」を計画した。 組み入れ基準は、以下の通りである。 ・同意取得時30歳以上 ・ 厚生労働省運動失調症研究班における診断基準において、特発性小脳失調症と診断されたもの(なお、本研究では、「頭部CT・MRIにおける両側性小脳萎縮」を満たすことは必須としない) ・ 孤発性のもの(孤発性の定義は、特発性小脳失調症の基準に従う) ・ 緩徐進行性の経過を示すもの(発症から受診までに1年以上の小脳性運動失調の病歴を呈するもの) ・ 免疫組織学的に血清抗小脳抗体が陽性のもの(ラット小脳凍結切片を用いた免疫組織染色を行い、小脳組織が染色される場合、対象者の158

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