臨床薬理の進歩 No.45
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考  察75.0%、cut-off値 0.40 ng/mLであった(図4C)。さらにグルカゴン負荷試験における追加インスリン分泌機能と高血糖発現を比較すると、grade 2以上の高血糖発現患者はΔCPR(6 min – 0 min)が有意に低かった(ΔCPR(6 min – 0 min)中央値、none, grade 1:2.23 ng/mL、grade 2以上:0.38 ng/mL、p = 0.0013)(図4D)。またROC解析の結果からΔCPR(6 min – 0 min)のgrade 2以上の高血糖発現の予測能は、AUC 0.967、感度100.0%、特異度91.7%、cut-off値 1.03 ng/mLであった(図4E)。本研究と臨床試験の比較 本研究は、がん悪液質を伴う進行期膵癌患者におけるアナモレリンの治療効果および安全性についてのエビデンス構築を目的とした前向き観察研究であり、さらに治療効果に影響を及ぼす因子の探索を目指した。追跡患者16名の追跡結果より、主要評価項目であるLBMを維持・増進した奏効率は56.3%であり、国内第Ⅱ相試験:ONO-7643-04試験(対象:非小細胞肺癌 実薬84名、プラセボ90名)の57.3%、国内第Ⅲ相試験:ONO-7643-05試験 (対象:大腸癌40名、胃癌5名、膵癌5名)の63.3%と大きな差はなかった7,9)。しかしながら、本研究では患者全体において治療開始前と比較しLBMの有意な上昇は示されなかった。ONO-7643-05試験、および本試験の患者背景を比較すると、年齢(66.5歳、67.5歳)、性別(男性:60.0%、62.5%)、BMI(19.0、19.0)、PS(0-1の患者:88.0%、93.8%)、および治療開始前の体重減少率(5-10%:53.1%、62.5%)と大きな差異はなかった7)。進行期膵癌患者において実施した本研究では、多くの患者が1次治療中にアナモレリンを導入したにも関らず、内服開始後3ヶ月未満で23名中10名(43.5%)がBSCとなった。主病の急速な進行により、大幅な体重減少を示す患者の存在が多く、患者全体としてLBMが有意な増加を示さなかった要因と考える。治療効果の個人差の要因 食欲中枢を司る生理活性物質であるghrelinは視床下部におけるGHS-R1a に結合し、摂食制御神経であるneuropeptide Y/agouti related proteinニューロンを刺激し食欲を亢進させる10)。ResponderおよびNon-responderにおいて内因性のghrelin、また食欲中枢抑制に働くleptinの発現量は差がなく、アナモレリンの応答性には関与しないと考えられる。Ghrelin誘導体であるアナモレリンも内因性ghrelinと同様の食欲中枢刺激効果があると考えられる。本試験においては、食欲に関するQOLは患者全体で上昇傾向ではあるものの、Responderと比較し、Non-responderでは有意なスコアの改善がみられなかった。今後はアナモレリンによる食欲中枢刺激がLBM変化に与える影響について追及する必要がある。本研究では、アナモレリン開始前後に管理栄養士による栄養摂取状況調査を実施しているため、今後は聴取した食事摂取量や摂取栄養バランスの推移を解析することで、アナモレリンの治療効果との相関を検討し、薬学的および栄養指導による多面的な悪液質への介入法を探索する。 一方、アナモレリンは下垂体前葉GHS-R1aの結合に伴うGH–IGF-1 pathwayの活性化による骨格筋蛋白合成を促進するが、血中IGF-1の推移はResponder、Non-responderで差がなかった。そのため骨格筋のIGF-1に対する反応に個人差がある可能性が示唆される。両群における患者背景の比較では、ResponderでBMIが低値を示す患者が多かった。アナモレリンが低 BMI患者(<20 kg/m2)の体重と食欲不振に関連する症状を改善し、持続的な有効性と良好な安全性を示すことは報告されているが11)、高BMI患者がアナモレリンに不応性である可能性を示したのは本研究が初めてである。先行研究にて肥満(高BMI)患者ではやせ型(低BMI)患者と比較して骨格筋のインスリン抵抗性が生じていることが報告されている12)。高BMI患者におけるインスリン抵抗性および基礎代謝の相違により、骨格筋がIGF-1に対して低い感受性を示すことで9

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