臨床薬理の進歩 No.45
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謝  辞利益相反筋蛋白合成に個人差が生じた可能性が考えられる。今後は骨格筋特異的に放出され、蛋白合成等を制御するmyokineや骨格筋由来のmiRNAの解析を通して、IGF-1に対する応答性の個人差を解析する。高血糖発現および臨床的対策 本研究での高血糖発現(36.4%)は、臨床試験および添付文書記載と比較して、高頻度で発生した(表3)。アナモレリン内服後の高血糖発現は、食欲中枢の刺激に伴う摂食の増加、GH増加に伴うよる肝臓での糖新生の亢進、IGF-1によるインスリン抵抗性の増加などが考えられる。Grade 2以上の高血糖を呈した患者は糖尿病既往の患者が有意に多く、上記のメカニズムにより上昇した血糖に対処できなかったと考えられる。膵臓はインスリン分泌を行うことで血中グルコース濃度を調節し、細胞内に栄養を取り込む役割を有している。膵癌患者は元来有するこの膵内分泌機能が腫瘍によって失われる影響で、膵性糖尿病を合併する患者が多数存在する。そのため非小細胞肺癌や胃癌、大腸癌患者と比較し高血糖の有害反応発現率が高くなったと考える。 本研究では、さらに基礎インスリン分泌能を示す空腹時CPRやグルカゴン負荷試験によって求められたΔCPR(6 min – 0 min)が、非常に高い精度でgrade 2以上の高血糖発現を予測できるバイオマーカーとなることを示した。また高血糖発現中央値が4.5日であり、治療開始早期のモニタリングが重要であることが明らかになった。本研究の結果は、膵癌患者でのアナモレリン内服に際し、開始前のインスリン分泌能測定や、開始後の血糖値のモニタリングを実施し、有害反応発現を早期に検出することの重要性を示しており、アナモレリンの適正使用に際し有益な情報を提供するものと考える。がん悪液質に対する薬学的介入 最新の膵癌診療ガイドラインでは新規にアナモレリンに関する項目が追記され、がん悪液質に対して投与が推奨されているが、膵癌患者におけるデータ不足からエビデンスレベルが低い。そのため、本研究のように実臨床での治療実績の結果を提示していくことが必要である。特に、アナモレリンが最も効果を発揮する内服開始時期や適切な患者の選択に関する検討は今後も重要である。がん悪液質は全身性代謝障害をきたす病態であり、多様な因子が関連しているため、治療効果に影響を与える要因を同定することは容易ではない。しかしながら、IGF-1の刺激を受けた骨格筋の変化などの検討を行うことで、アナモレリン不応性患者に対する新たな治療法が開発されることが期待される。また、がん悪液質への治療介入の最終目標である、化学療法の奏効や有害反応の軽減、生存期間の延長への影響は未だ検討されておらず、今後の研究課題である。 本研究を遂行するにあたり、研究助成を賜りました公益財団法人臨床薬理研究振興財団に心より感謝申し上げます。また、本研究に御参加頂きました患者様ならびにそのご家族様に御礼申し上げます。加えて、本研究の遂行にあたり、御指導および検体採取の御協力を賜りました、九州大学病院 肝臓・膵臓・胆道内科の大野 隆真先生、植田 圭二郎先生、高松 悠先生、上田 孝洋先生、木村 弥成子先生、小森 康寛先生に厚く御礼申し上げます。 本研究に関して開示すべき利益相反はありません。10

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