臨床薬理の進歩 No.45
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方  法 トシリズマブの血中濃度が低下する要因として、いくつかの仮説が考えられる。トシリズマブはエンドサイトーシスによって標的抗原を介さずに細胞内へ移行した後、リソソームによる分解を受けるが、その一部は胎児性Fc受容体(FcRn)と結合することで分解を免れ、再び血中にリサイクルされる3)。このリサイクリング機構の過程において、抗体薬と同様にFcRnに結合する内因性の免疫グロブリンG(IgG)は、トシリズマブのFcRnへの結合を競合的に阻害することで、その細胞内分解を増加させる可能性がある。一方で、IgGとは異なるFcRnの部位に結合するアルブミンは、そのリサイクリング機能に依存した血中挙動を示すことが知られている4)。FcRnを介したアルブミンのリサイクリング効率が低下している患者では、トシリズマブの細胞内分解が亢進し、その血中濃度が低値を示す可能性がある。しかしながら、皮下投与されたトシリズマブとこれらのFcRn結合タンパク質の血中動態との関連性については明らかではない。 トシリズマブにおける別の消失経路として、標的抗原である膜結合性及び可溶性IL-6受容体に結合することで、細胞内に移行して分解を受ける。可溶性IL-6受容体は血液中や組織液中に存在しており、その血中濃度は健康成人に比べて関節リウマチ患者で上昇することが確認されている5)。また、関節リウマチ患者における血中可溶性IL-6受容体は、トシリズマブの効果予測因子となることが示唆されている5)。関節リウマチの疾患活動性や罹病期間などの影響を受けて可溶性IL-6受容体の発現が増加する場合には、トシリズマブの消失が亢進する可能性がある。しかしながら、トシリズマブの血中動態と血中の可溶性IL-6受容体との関連性については明らかではない。 関節リウマチ患者において、トシリズマブの血中濃度低下に関連する要因を明らかにすることで、その患者背景に基づいたトシリズマブの個別化投与設計が可能になるかもしれない。本研究では、トシリズマブの皮下投与を受けた臨床的寛解にある関節リウマチ患者において、血清中トシリズマブ濃度と血清中のFcRn結合タンパク質及び可溶性IL-6受容体濃度との関連性について解析することを目的とした。人権の保護と法令等の遵守 本研究のヒトを対象とした臨床研究は浜松医科大学及び信州大学の臨床研究倫理委員会の承認を受けて実施した。本研究は、ヘルシンキ宣言及び 「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に従い実施した。被験者には、本研究の実施計画、研究の意義、考えられる有害反応及び試験への参加中止の自由などについて、口頭及び文書で説明した後、自由意思に基づく参加への同意を文書で得た。なお、本研究に関連して、開示すべきCOI関係にある企業等はない。患者と試験スケジュール 浜松医科大学医学部附属病院において、関節リウマチに対してトシリズマブの治療を6ヵ月以上受けて臨床的寛解に到達しており、かつトシリズマブ162 mg(アクテムラ皮下注162 mgオートインジェクター®、中外製薬株式会社、東京)を2週間に1回皮下投与する患者33名を対象とした。採血について、トシリズマブの皮下投与12回目以降の投与直前において、上腕部静脈から通常の臨床検査とともにプレーン採血管にて血液を採取した。除外基準として、(1)入院加療を要する感染症を併発している患者、(2)高度肝機能障害(血清中総ビリルビン値 > 2.0 mg/dL)を有する患者、(3)高度腎機能障害(血清中クレアチニン値 > 2.0 mg/dL)を有する患者とした。血清中トシリズマブ濃度の測定 血清中トシリズマブ濃度の測定には、以前に我々が確立した液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC-MS/MS)法を用いた6)。LC-MS/MS法では、固相化トリプシン(MonoSpin Trypsin、29

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