臨床薬理の進歩 No.45
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方  法には程遠いのが現状である。 著者らは、日本小児栄養消化器肝臓学会の支援を受けPFIC1を対象とした全国調査を実施し、その診療情報の解析から本疾患の肝病態が肝外組織に起因している可能性を見出した。本知見に基づき、Atp8b1のコンディショナルノックアウトマウスを作出したところ、腸管上皮細胞特異的にAtp8b1をノックアウトしたマウスが、PFIC1患児と類似した肝病態を呈することを確認した(以降、本マウスをPFIC1モデルマウスとする)。本マウスの肝病態発症機序を解析した結果、Atp8b1が腸管上皮細胞においてフリッパーゼ機能を介し、リゾホスファチジルコリン(LPC)の吸収に働いていることを見出した。また本マウスでは、Atp8b1の機能欠損に伴い、LPC吸収不全が生じ、体内へのコリン源の供給が不足するが故に、肝病態が発症していることを確認した5)。 以上、著者独自の知見を踏まえ、本研究では、PFIC1症例の生体試料を分析し、PFIC1モデルマウスの肝病態発症機構についてPFIC1症例への外挿可能性を検証する(項目1:臨床エビデンスの取得)。またPFIC1モデルマウスに対するコリン補充食の有効性(肝病態校正の可否)を検証する(項目2:非臨床POCの取得)。本研究では、以上の工程を介し、PFIC1の肝保護療法薬として臨床開発の検討に資する化合物を導出することを目的とする。研究の倫理性 マウス実験は、東京大学薬学部の動物実験委員会の承認を受け、そのガイドラインに従って実施した(許可番号:P29-24)。ヒトを対象とした研究は、東京大学薬学部及びすべての共同研究機関において各機関の倫理審査委員会の承認を取得後に開始した(許可番号:24-5)。1964年のヘルシンキ宣言とその後の改訂版、または同等の倫理基準(エジンバラ2000年改訂版)に従って実施した。本研究への参加に先立ち、すべての被験者またはその両親(被験者が18歳未満の場合)から書面によるインフォームド・コンセントを得た。ヒト検体の採取 2015年に日本小児栄養消化器肝臓学会の支援を受け、PFIC患者を特定するための全国調査を実施した。PFICの臨床診断は、難治性のそう痒を伴う肝細胞胆汁うっ滞、高ビリルビン血症を伴う黄疸、血清胆汁酸濃度の上昇の有無に基づいて行った2〜4)。身体検査、血液検査、ウイルス検査、代謝マーカー測定、画像検査、尿スクリーニング検査を実施し、B型及びC型肝炎ウイルス感染、先天性胆汁酸代謝異常症、胆管狭窄など、他の原因による胆汁うっ滞症例を除外した。PFICの臨床診断を受けた症例を対象に遺伝子検査を実施した。新生児/小児肝内胆汁うっ滞の原因遺伝子を対象とした遺伝子パネルにより、対象遺伝子の全エクソンとその近傍のイントロン-エクソン境界を解析した6,7)。ATP8B1の対立遺伝子の両方に病的変異を有する患者、および/または著者が独自に確立した末梢血単球由来マクロファージを用いた表現型解析8)でATP8B1の機能欠損を示した患者は、PFIC1と診断した。22名のPFIC1患者と、ATP8B1以外の遺伝子に病原性変異を有する47名の患者が同定され、本研究に登録された。コリン代謝物の測定法 コリン、ベタイン、ジメチルグリシンの血漿中濃度は、LC-MS/MSを用い、先行論文にて確立した分析法にて測定した5)。マウス飼育 本研究では、先行論文で作出したPFIC1モデルマウスを用いた5)。マウスはSPF環境下、室温23.5±2.5 ℃、相対湿度52.5±12.5%、12時間明:12時間暗のサイクルでプラスチックケージにて飼育された。リサーチダイエット社より購入した標準飼料(D10012G)、1%コリン補充食(CSD; choline supplementation diet、D2001140)を給餌した。36

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