臨床薬理の進歩 No.45
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*1 YOSHIDA KOSUKE *2 YOKOI AKIRA *3 YAMAMOTO YUSUKE 国立がん研究センター研究所病態情報学吉田 康将*1  横井 暁*2 山本 雄介*3Identification of novel therapeutic agents for uterine leiomyosarcomathrough multiomics analysesはじめに要   旨 子宮平滑筋肉腫(ULMS)は、悪性軟部腫瘍の一種であり、極めて予後不良な婦人科悪性腫瘍である。本邦の2019年における症例数は243例と希少がんに該当する1)。治療は、病変が子宮に限局している症例に対しては、外科的な完全切除が唯一根治の可能性がある治療法である。しかし、完全切除ができたとしても、多くの症例は早期に再発を来すことが知られている2)。そのような再発症例や進行症例に対しては、化学療法や分子標的薬による治療が行われているが、いずれの治療薬についてもその有効性は限定的である。従って、現時点において進行・再発ULMSを制御することは困難であり、進行・再発症例の全生存期間の中央目的 子宮平滑筋肉腫(ULMS)は、予後不良な希少婦人科がんであり、新規治療薬開発が望まれている。本研究の目的は、次世代シーケンス解析により、ULMSの新規治療標的を同定することである。方法 国立がん研究センターバイオバンクに保管されていた6例のULMSと3例の子宮筋腫(myoma)を対象とした。次世代シーケンス解析により病態への関与が示唆される因子を同定し、細胞株を用いてその因子について機能解析を行った。結果 RNA-seqとマイクロRNA-seq解析により、ULMSとmyomaは異なる遺伝子発現プロファイルを示した。そして、パスウェイ解析の結果、ULMSにおいて細胞周期関連酵素の活性化が示唆された。さらに、PLK1とCHEK1阻害剤は、細胞株および細胞株を移植したマウスモデルにおいて、極めて高い抗腫瘍効果を発揮した。結論 ULMSにおいて、細胞周期関連酵素が新たな治療標的として期待される。名古屋大学大学院医学系研究科名古屋大学医学部附属病院産婦人科学値は、1-2年程度と考えられている2)。従って、ULMSに対する新たな治療薬開発が強く望まれている。 近年、次世代シーケンス技術(NGS)の発展は目覚ましく、DNAやRNAといった核酸を大量に、高速に、安価に解析できる時代となった。ULMSにおいても、TP53、RB1、ATRX、PTENといった遺伝子変異の頻度が高いことが報告されている3)。しかし、これらの遺伝子変異に基づく有効な治療薬は開発されていない。そこで、機能的な遺伝子発現に着目して研究する必要があると考えたが、RNAは、DNAと比べて安定性が低いことが研究の障壁となっていた。 本研究は、名古屋大学と国立がん研究センターとの共同研究である。国立がん研究センターのKey words:子宮平滑筋肉腫、RNAシーケンス、マイクロRNAシーケンス、細胞周期関連キナーゼ、新規治療薬候補42子宮平滑筋肉腫に対するマルチオミクス解析による新たな治療標的の探索

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