臨床薬理の進歩 No.45
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CD8(orange)FOXP3(magenta)PD-1(cyan)DAPI(blue)図1 多重免疫染色を用いた原発病変と肝転移病変における免疫応答肺がん原発病変と肝転移病変の検体が取得された患者を対象に多重免疫染色を実施した。肝転移病変では原発病変と比較して腫瘍浸潤制御性T細胞にPD-1が高発現していた。文献 21)より引用、改変。MergedFOXP3(magenta)MergedDAPI(blue)方法および結果シグナル伝達経路の異常が免疫逃避に寄与し、がん免疫療法への抵抗性につながる18)。 腫瘍は主にグルコースを利用し、生存のために好気的解糖を促進する(Warburg効果)。低グルコース(高乳酸)および低酸素環境は、エフェクターT細胞の生存および機能に適しておらず、抗腫瘍免疫の衰退につながる19)。それにもかかわらず、Treg細胞が過酷なTMEに豊富に浸潤し、免疫抑制機能を発揮できることを考えると、エフェクターT細胞とTreg細胞の間の異なる代謝プロファイルの関与が示唆される20)。 本検討においては、PD-1を発現するエフェクターT細胞とTreg細胞のバランスがTMEでどのように展開されるのかを、代謝プロファイルの観点から取り上げた。Treg細胞が主に発現しているmonocarboxylate transporter 1(MCT1)による乳酸の取り込みは、nuclear factor of activated T cell 1(NFAT1)の核内移行を促進し、PD-1の発現を能動的に誘導することが判明した。我々は、乳酸がTreg細胞の代謝チェックポイントとして働き、TMEにおける免疫応答を制御していることを提案する。肺がん原発病変 本研究は国立がん研究センター東病院の倫理委員会と国立がん研究センター先端医療開発センター実験動物管理部門の承認を受け実施された。 国立がん研究センター東病院において外科的手術により切除された肺がんもしくは胃がん検体から腫瘍浸潤リンパ球を抽出し、フローサイトメトリーを用いて解析した。また、同時に次世代シークエンサーを用いてがん組織での遺伝子発現の網羅的解析を実施した。腫瘍浸潤制御性T細胞のPD-1発現が高い腫瘍と低い腫瘍とを比較したところ、腫瘍浸潤制御性T細胞のPD-1発現が高い腫瘍で解糖系に関わる遺伝子発現が高いことが明らかとなった。解糖系が高まる病態として肝転移病変が知られていることから、肺がん原発病変と肝転移病変の両方の検体を用いて多重免疫染色を実施した。肝転移病変では原発病変と比較して制御性T細胞のPD-1発現が高く、網羅的遺伝子発現解析で得られたデータが確認された(図1)。肺がん肝転移病変CD8陽性T細胞と制御性T細胞のバランスに着眼した新規がん免疫治療戦略への応用CD8(orange)PD-1(cyan)51

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