臨床薬理の進歩 No.45
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)Mm(度濃酸乳胸腔内腫瘍皮下腫瘍正常肝肝臓内腫瘍正常肺血清FMICD8陽性T細胞上のPD-1発現皮下腫瘍胸腔内腫瘍肝臓内腫瘍HIF1αPDK1LDHAβ actin+ - -- + -- - +制御性T細胞上のPD-1発現MC38培養前糖 1 mM, 乳酸 0 mM糖 1 mM, 乳酸 1 mM糖 1 mM, 乳酸 5 mM糖 1 mM, 乳酸 10 mM糖 1 mM, 乳酸 20 mM糖 10 mM, 乳酸 0 mM****************************** 次に解糖系が高まっている腫瘍においてなぜ腫瘍浸潤制御性T細胞においてPD-1発現が高まるのかを検討するため、腫瘍浸潤リンパ球の網羅的遺伝子発現解析を実施して比較検討した。腫瘍浸潤PD-1陽性制御性T細胞では他のリンパ球と比較して乳酸トランスポーターであるMCT1(遺伝子名SLC16A1)の発現が高まっていることを見出し、腫瘍の解糖系の最終代謝産物である乳酸を制御性T細胞が取り込むことでPD-1発現を高めている可能性が示唆された。乳酸が制御性T細胞上のPD-1発現を誘導する機序を検討するため、低糖環境下で乳酸濃度を漸増させ様々なT細胞を刺激した(図2)。 エフェクターT細胞(CD8陽性T細胞)では低糖環境下で乳酸濃度の上昇に伴いPD-1発現は低下図2 各リンパ球のPD-1発現と乳酸の関係低糖環境下(1 mM)で乳酸濃度を漸増させリンパ球を刺激すると、制御性T細胞ではPD-1発現が高まった(n=3)。One-way ANOVA検定を実施した。Mean±SD。*: p<0.05、**: p<0.01、***: p<0.001、ns: not significant。文献 21)より引用、改変。図3 各臓器における乳酸含有量野生型マウスの皮下、胸腔内、肝臓内に腫瘍細胞を接種し、解糖系関連分子発現や乳酸含有量を検討した。肝臓内腫瘍において最も乳酸含有量が高いことが判明した(n=4)。Mean±SD。One-way ANOVA検定を実施した。***: p<0.001。文献 21)より引用、改変。したのに対して、制御性T細胞ではPD-1発現が高まった。つまり、制御性T細胞ではCD8陽性T細胞とは異なり乳酸を介した特異的なPD-1発現機構を有していることを発見した。さらに、肝転移病変において解糖系が亢進し乳酸濃度が高まっているかを、マウスモデルを用いて検討した。野生型マウスに皮下、胸腔内、肝臓内にマウス消化器がん細胞株であるMC38を接種した。皮下腫瘍、胸腔内腫瘍に比較して、肝臓内腫瘍ではHIF1α 発現上昇を介して解糖系関連分子発現が高まり、それに伴いその他の腫瘍と比較して乳酸濃度が上昇していた(図3)。 また、肝臓内腫瘍では腫瘍浸潤エフェクターT細胞(CD8陽性T細胞)のPD-1発現は低下している一方で、制御性T細胞のPD-1発現が高まり、各組織の乳酸濃度52

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