臨床薬理の進歩 No.45
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形質芽細胞の割合が治療後に有意に減少し、メモリーB細胞の割合が治療後に有意に増加していたものの、再燃群においても同様の傾向を呈したため(統計学的有意差はn数の都合で示せず)、これらのB細胞サブセットはPM/DMの再燃マーカーとしての有用性は低いと考えられる。なお、これらB細胞サブセットの治療前後の増減変化はSasaki等の報告と一致しており、フローサイトメトリーを用いた免疫細胞プロファイル解析の再現性の高さを示した13)。 UnstimulatedメモリーB細胞の起源や機能に関しては不明な点が多く、本研究で再燃群においてunstimulatedメモリーB細胞のB細胞における割合が増加していたことと再燃の病態との関連性は不明である。一方、活性化ミエロイド樹状細胞や古典的単球が再燃群おいて増加していることは、増加した活性化ミエロイド樹状細胞や古典的単球による抗原提示や両細胞より産生されるサイトカインによりT細胞が活性化(分化や増殖)され、PM/DMの病態が悪化したと考えられる。治療抵抗性のPM/DM患者に対する臨床試験においてRTXが主要評価項目に対する有効性を示せなかったものの、サブ解析において抗ARS抗体や抗Mi-2抗体陽性患者には有効であったように6)、同じく治療抵抗性のPM/DM患者に対する臨床試験で主要評価項目への有効性を示せなかったABAも、活性化ミエロイド樹状細胞や古典的単球が増加している患者においては、ABAが樹状細胞や単球などの抗原提示細胞のMHCとCD80/86によるT細胞活性化を抑制する観点から有効である可能性がある。 Sasaki等は、健常成人と治療前のDM患者とでは、DM患者で少なくともCD4+ Tem細胞の割合が有意に低下していると報告している13)。本研究で治療前後において寛解群の患者でCD4+ Tem細胞とCD8+ Tem細胞が有意に増加したことは、奏効した治療により両Tem細胞の割合が健常成人レベルに回復したと考えられ、再燃群では治療が奏効せずTem細胞の割合が増加しなかったために、治療前後で有意な変化を認めなかったと考えられる。PM/DMの疾患活動性が高い時にTem細胞の末梢血中の割合が低いのは、活性化したTemが炎症の局所(筋や肺)に移動しているためと推定される。 本研究の欠点としては、研究・解析対象となったPM/DMの患者数が想定より少なかったこともさることながら、再燃群のn数が非常に少なく、寛解群と再燃群との間の免疫細胞プロファイルの差異の検出力に影響を与えた点が挙げられる。本研究での対象PM/DM患者が少なかった理由の1つとして、本研究課題の対象期間がコロナ禍と重なった点が考えられる。今回PBMCを採取した32例のPM/DM患者の内(表2)、約3分の1の11例が2023年4月以降に発症した患者であり、治療後から本研究課題の期間内(〜2023年10月)においては、治療により寛解する(6ヶ月以上安定)か再燃するか判定不能であった。PM/DMの発症には何らかのウイルス感染の関与も考えられており15)、コロナ禍により人々が不要な外出を控え、手洗い・うがいを行うようになり、マスク生活をすることになった2020〜2022年においては、COVID-19以外のウイルス感染も減ったためにPM/DM患者の発症が減り、一方、withコロナの社会へと変遷した2023年以降は人々の衛生状態が2019年以前と同じとなりPM/DMの発症率が戻り、本研究対象の患者が2023年4月以降に集中したと考えられる。 再燃群のn数が少ないことは、当科が提供している医療(治療水準)が概ね奏効していることの傍証であり、患者自身にとっても喜ばしいことではある。一方、PM/DMが再燃・再発する患者は一定の割合で存在し(特に抗ARS抗体陽性患者)、上述のように今後は初発の患者の増加が予想されるので、PM/DM患者さんの臨床経過の観察期間、初発例/再燃・再発例も含めPBMC回収期間を延長し、免疫細胞プロファイルデータをより蓄積し、寛解群と再燃群の特徴的な免疫細胞フェノタイプに関し、今回導かれた結果の再検証も含め、引き続き評価・解析を行っていきたい。そして、特徴的な免疫細胞フェノタイプを有するPM/DM患者に対し、免疫抑制剤の早期導入、2剤併用、変更等68

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