*1 TOYOHARA TAKAFUMI *2 WATANABE SHUN *3 ABE TAKAAKI 豊原 敬文*1 渡辺 駿*2 阿部 高明*3はじめに要 旨目的 尿毒症物質の生成に関与する腸内細菌種については十分に同定、解明されていない。本研究は尿毒症物質を産生または抑制する可能性のある腸内細菌の同定を目的とした。方法 CKD患者101名の血清中の腸内細菌由来尿毒症物質インドキシル硫酸(IS)、フェニル硫酸(PS)、パラクレシル硫酸(p-CS)、トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)を測定、また便中腸内細菌叢を分析し、尿毒症物質と各菌種との関連を尿毒症物質を目的変数に菌の構成割合とeGFRを説明変数とする重回帰分析を行い解析した。結果・考察 21通りの組み合わせで尿毒症物質と腸内細菌の有意な相関を認めた。その中でもp-CS濃度と正の相関を示すClostridiales目の2種類、逆に負の相関を示すVeillonellales目の1種類とClostridiales目の1種類が強い相関性を示した。今後、これらの菌種とp-CSの関連性について解析することにより尿毒症物質産生抑制によるCKD治療の開発につながると考えられた。東北大学病院腎臓・高血圧内科 同 上 同 上とって好ましくない腸内細菌叢の状態を「ディスバイオーシス(dysbiosis)」と呼ぶ。慢性腎臓病(Chronic kidney disease: CKD)患者においても腸内細菌叢が変化してディスバイオーシスが生じていることが患者検体や腎不全モデル動物の糞便、腸管内内容物を用いた検討から報告されており1)、腎不全をはじめとする腎臓病の病態と腸内環境が相互に関与する「腸腎連関」が近年着目されている。この腸腎連関の重要な要素の1つが尿毒素であり、腎機能の低下に伴って体内に蓄積してくる物質は総称して「腎不全物質」と呼ばれ、その中でも生体に対して毒性を発揮する物質は「尿毒素」と呼ばれている。保存期CKD患者では尿毒素の蓄積は腎機能を悪化させ、その結果さらに尿毒素の蓄積が進むKey words:慢性腎臓病、腸内細菌、尿毒素、動脈硬化、プロバイオティクスDeveloping new therapies for atherosclerosis in chronic kidney disease ヒトの腸管内には500〜1000種類、100〜1000兆個の腸内細菌が常在し腸内細菌叢を形成することが知られており、健常時にはビタミンやタンパク質合成、感染防御、免疫刺激など、宿主のヒトにとって種々の有益な機能を果たしている。しかし、何らかの原因でひとたび腸内細菌叢のバランスが破綻すると、腸内腐敗毒素や発癌性物質の産生増加、病原性細菌の増加など宿主にとって有害性の強い状態に変容してしまう。このような腸内細菌叢のバランスの破綻は様々な疾患によって引き起こされ、その病態を修飾しうることも知られている。このように疾患に関連するような生体にthrough microbiome manipulation71腸内細菌に着目した慢性腎臓病の動脈硬化に対する新規治療法の開発
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