CKDクス(ここでは有益な腸内細菌の増加や活動増強を促す物質)やプロバイオティクス(十分量を摂取したときに有益な腸内細菌)などの様々な手法を用いて腸内細菌叢を整えることで、腸内細菌による有害な尿毒素産生の抑制や血中尿毒素の低減させる研究が行われている(図2)。申請者らのグループも特に便秘症治療薬を使用した腸内細菌を介したCKDに対する治療に関する研究を進めてきた。例えば、便秘症治療薬であるリナクロチドを投与することで腎不全マウスにおいて腸内細菌由来尿毒素の中でもTMAOが減少して、腎障害や心筋線維化の抑制作用があることを報告した19)。このような腸内細菌を標的とした治療を行うにあたり、どのような種類の細菌がこれらの尿毒素を産生あるいは抑制しているか解明することは有用であると思われるが、未だ十分に解析されていない。このため我々は患者検体を用いることで腸内細菌由来尿毒素の産生に関与すると思われる菌を同定することを目的に本研究を行った。 東北大学病院腎臓・高血圧内科外来に通院する患者101名に東北大学医学部倫理委員会で承認されたプロトコールのもと(2022-1-823、2012-3-19)、同意を得て協力いただいた。平均年齢は69.2±12.1歳、男性61名、女性40名、平均腎機能(推定方 法動脈硬化脈硬化図2 腸腎連関と血管病変の悪循環への介入表1 患者背景東北大学病院外来に通院患者101名を対象年齢 (歳)血圧 (mmHg)性別 (n、男 / 女)eGFR (mL/min/1.73 m2)糖尿病の有無 (n、有 / 無)Mean ± SD腸内細菌叢の変化ディスバイオーシス腎機能低下腎機能低虚血悪循環悪循環悪循環悪循環動脈硬化動脈硬化腸内細菌由来尿毒素の蓄積腸内細菌由来腸内細菌由尿毒素によ尿毒素による動脈硬化促進動脈硬化促腸内細菌叢への介入による腎臓病治療プレバイオティクスプロバイオティクスなど腸内細菌に着目した慢性腎臓病の動脈硬化に対する新規治療法の開発糸球体濾過量:estimated glomerular filtration rate、 eGFR)は61.5±26.0 mL/min/1.73 m2であった。降圧剤を内服し血圧は落ち着いていた(表1)。上記患者の外来受診時に血清サンプルから既報の通りに質量分析計でPS、p-CS、IS、TMAOの測定を行った3)。また同時に便中腸内細菌叢を16SリボソーマルRNA解析し、尿毒症物質と各菌種との相関係数を求めた。 尿毒素や腸内細菌の相関関係を求める際に従来から問題となっている点として腎機能が低下すること自体で尿毒素が蓄積し、腸内細菌もディスバイオーシスを起こしてしまうため、その2群間の関係に腎機能という交絡が存在してしまう点がある。このため、尿毒症物質を目的変数に菌の構成割合とeGFRを説明変数とする重回帰分析を行い有意差のある症例のみ抽出した。この重回帰分析を行うことで腎機能による交絡を除いて尿毒素と腸内細菌の関係を解析し、尿毒素の産生または抑制する可能性のある腸内細菌の同定を行った。患者群内69.2 ± 12.1128 ± 8.75 / 72.7 ± 6.3361 / 4061.5 ± 26.046 / 557373尿毒素の蓄積腎血流の低下腸内環境の悪化図1 腸腎連関と血管病変の悪循環
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