臨床薬理の進歩 No.45
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対象と方法結  果受容体の異常は、うつ病をはじめとする精神疾患との関連が指摘されている6〜8)。一方、うつ病患者の死後脳研究においてAMPA受容体の発現異常が報告されているが、その結果は一致しておらず、死後の生理的変化、臨床情報の不足、対照の設定が困難、などの影響が考えられる。この問題点を解消するためにはヒト生体でAMPA受容体を可視化し定量することが必要であるが、その技術はこれまで存在しなかった。高橋ら(横浜市大)は生体でAMPA受容体を可視化するPET probeである、[11C]K-2の開発に世界で初めて成功し、Nature Medicine誌(2020)において発表した9)。側頭葉てんかん患者を対象としたパイロット試験で、病巣の術前の[11C]K-2シグナルの強さと外科切除した脳組織におけるAMPA受容体タンパク量の間に強い相関を認めており、直接的に定量性能が検証されている。パイロット横断研究において、本PET薬剤を、うつ病、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、双極性障害を含む様々な精神・神経疾患患者へ投与し、各疾患において極めて特徴的なAMPA受容体の分布を明らかにした。しかしパイロット研究では治療抵抗性の基準を満たすうつ病患者は組み入れられておらず、AMPA受容体の集積異常が重症度と関連するものか、あるいは治療反応性と関連するかは明らかにできていない。 そこで本研究では、治療抵抗性うつ病患者と非治療抵抗性うつ病患者を対象に、うつ病重症度を測定するとともに、[11C]K-2を用いてAMPA受容体を標識するPET検査を実施し、治療抵抗性うつ病患者に特徴的な神経基盤を同定し、治療薬開発の礎石とすることを目的とした。 本研究は慶應義塾および横浜市立大学臨床研究審査委員会の承認を得た。PET検査は、慶應義塾大学病院および横浜市立大学附属病院にて実施した。 20歳以上60歳未満の男女の治療抵抗性うつ病患者および非治療抵抗性うつ病患者を対象とした。「治療抵抗性うつ病」は、現在の抑うつエピソードに対して抗うつ薬を2種類以上、承認用量で6週間以上使用しても反応が不十分(50%未満の改善)であり、かつ、モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale(MADRS))合計点22点以上とした。診断は、Structured Clinical Interview for DSM-5 Disorders Research Version (SCID-5-RV)日本語版で、うつ病の基準を満たす患者とした。なお、精神病性の特徴を伴ううつ病、妊娠中・授乳中、てんかんまたはけいれん発作の既往、脳血管障害の既往、不安定な身体合併症や肝機能障害、腎機能障害、尿スクリーニングによる依存物質陽性の症例は除外とした。 同意判断能力が十分と判断された症例において、研究参加について本人から書面を用いて同意を取得して研究を開始した。うつ病重症度はMADRSで評価した。そして、[11C]K-2を用いたPET検査により、脳内のAMPA受容体の分布を可視化、定量化した。重症度を共変量として、治療抵抗性うつ病群と非治療抵抗性うつ病群のAMPA受容体密度を全脳的に比較し、有意に群間で異なる領域を抽出した。解析では、[11C]K-2を投与して得られたPET画像を、標準化MRI上に展開したデータを作成した上で、PET画像値を算出した。治療抵抗性うつ病群と非治療抵抗性うつ病群の平均画像を構成し、個々のvoxelが持つAMPA受容体密度の平均値、標準偏差などの要約統計量を算出して、t-検定を用いて群間比較を行い、その後、多重性調整のためfalse discovery rate(FDR)補正(p<0.001)を実施し、その結果群間差を呈するvoxelが統計的有意に連続したクラスターを形成する場合、その領域が標準化MRI上に展開されることで解析結果を得た。 治療抵抗性うつ病22例(平均年齢32.5±11.2歳、女性6例、平均MADRS合計点16.5±10.8)および非治療抵抗性うつ病35例(平均年齢42.5±7.4歳、80

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