臨床薬理の進歩 No.45
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対象と方法 著者は滑膜病変について様々な検討を行った結果、滑膜病変によって強い痛みが生じている膝OAの症例では滑膜性の疼痛が強い時期(P期)と滑膜病変が軽快して痛みが軽減した時期(PR期)の2時点で採取された関節液の比較から、PR期に比べてP期の関節液でウロキナーゼ(uPA)の濃度が高く、プラスミン活性の指標となるプラスミン・α2-プラスミンインヒビター複合体(PAP)の濃度も高値となること、しかしもう1つの重要なプラスミノゲン・アクチベーターである組織型プラスミノゲン・アクチベーター(tPA)やプラスミノゲン・アクチベーターの活性を阻害するPAI-1の濃度はP期とPR期の間で有意な差が見られないことを見出していた。 これらの知見からP期のOA関節では関節液中でuPAが増加することによってプラスミン活性が誘導された可能性が考えられた。このため著者はついでP期に関節液中でuPA濃度が上昇する機序を探った。種々の細胞においてuPAの発現は炎症性サイトカインによって誘導されることが知られている2)。この知見に基づいて著者はP期とPR期の関節液についてIL-1βとTNF-αの濃度を計測したが、これらのサイトカインの濃度はいずれも相当に低く、またP期とPR期の間で濃度にほとんど違いがなかったことから、P期におけるuPAの増加が炎症反応によるものとは考えにくく思われた。 本研究では以上の研究の経緯から、P期のOA関節において関節液中でuPAの濃度が上昇する機序を解明することを試みた。 本研究ではOA軟骨から遊離する因子に着目して解析を進めた。P期は滑膜性の疼痛が強い時期であり、滑膜における変化が高度に起こっている状態と考えられる。したがってP期に関節液中のuPAの濃度が上昇するのは滑膜において産生が亢進するためと考えられる。一方、OAでは人工関節置換を行って変性軟骨を取り除くことによって滑膜病変が消退する。このことから、OA軟骨から遊離する何らかの因子が滑膜に作用してuPAの発現を誘導する可能性が考えられる。軟骨の組織としての特性を考えるとそのような因子は荷重に伴って軟骨から遊離する可能性が高い。このため本研究ではOA軟骨に歩行の際に加わるのと同等のレベルの荷重を加え、それによって軟骨から遊離する因子について、滑膜細胞に対してuPAの発現を誘導する作用があるかをまず検討することとした。血漿と関節液中のuPAの濃度の比較 本検討は参加各施設の倫理審査委員会の承諾を得て行われ、検体の採取は患者本人、剖検例の場合は提供者のご家族から書面で承諾を得たうえで行われた。 本研究でははじめに関節液中のuPAが実際に関節内で産生されているかを知るために、関節液と同時に同一の被検者から採取された血漿についてuPAの濃度を計測し、関節液中の濃度と比較した。具体的にはP期の関節液を採取された症例のうち10例において関節液を採取したのと同じ日のほぼ同時刻に血漿を採取していたため、これらの血漿検体についてLuminexを用いてuPAの濃度を計測し、すでに計測されていた関節液中の濃度と比較した。この計測はMagnetic Luminex Performance Assay and Human Luminex Discovery Assay(R&D 図1 膝関節からの軟骨組織の採取膝OAの症例から採取した脛骨近位部の肉眼所見。実線で囲んだ領域から非変性部のOA軟骨を、破線で囲んだ領域から変性部のOA軟骨を採取した。文献3より引用、改変。84

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