臨床薬理研究振興財団30年のあゆみ
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臨床薬理研究振興財団ー 30周年記念 行事/記念講演 ゲノム時代の臨床薬物治療学と創薬 ー 30年のあゆみ 27最後に、DNAチップによって薬物の応答性もそうですし、診断も大きく変わると思います。FDAで今pharmacogenomicsのガイダンスが出ましたが、その中でもこういうチップの活用を強く強調しております。では治験はどうなるか? 今までのゲノムの背景を無視した均一の集団の評価から、今申しましたように層別化された患者さん、層別化された薬物治療を考えているわけですから、治験の段階から層別化した患者集団のresponder、non-responderを分ける、あるいはside eff ectの可能性の高い方を避けるといったような安全でかつ効率の良い、迅速な治験というものが、こういうことで可能になるだろうと考えられております。私の期待する、これまでのゲノムが臨床薬理にどういうことをもたらしたかをまとめてみます。ご存じのようにゲノムとか、テーラーメイド医療、オーダーメイド医療、あるいはゲノム創薬というものが比較的社会的にも一般的な言葉として認知されてきたのではないでしょうか。そういう意味では、ゲノムが怖いものということから、段々と理解、普及が広がってきているのではないかと思います。ゲノム臨床薬理研究の体制整備が、特に倫理面とか、解析のデータベース面で非常に進歩してきているのではないかと思います。FDAの具体的なガイダンスも出てきています。今後、特に各種のオミックスが成熟してきていますので、そういうものを早く臨床の現場にどういうふうに導入するかという、臨床オミックスということが今後重要な課題になるだろうと思われます。今後ゲノムの科学を医療に生かすために臨床薬理を目指す方々には是非EBMを推進するための勉強をしてほしいと思うのと、先ほど申しましたように、猛スピードで走っていますが、いろいろな落とし穴があります。また教育の中でも遺伝学というものが本当に重要になってきていますが、大学ではなかなか成熟していません。広範囲な目配りをぜひお願いしたいと期待するところです。ということで、最後にアインシュタインの“空想は知識より重要である”という言葉で締めくくりたいと存じます。30年前に臨床薬理研究振興財団が設立され、臨床薬理また各方面に多くの教育、研究者を排出されたということは素晴しいお仕事だったと思います。ただし、今後どういう新しい科学がくるか、あるいは新しい技術が出てくるか、あるいは新しい問題が出てくるか、そういうことに関しては、知識も非常に重要ですが、空想がさらに重要ではないかと思います。そういう意味で、臨床薬理をこれから目指される方も含めまして、今後どんな状況があっても、まず空想力を働かせて、これを克服していきたいと思います。財団法人

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