臨床薬理研究振興財団30年のあゆみ
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岡 私は1980年に臨床薬理学会に入りましたが、丁度この頃、薬の効果というものは、医師のさじ加減よりも血中濃度とよく比例しているという見方が強くなって参りました。健康保険ではほぼ30種類の薬物の血中濃度測定が特定薬剤治療岡 氏管理料として認められるようになりましたが、これには臨床薬理を専門とする人たちの発言が大いに影響したんじゃないかと思います。これによって漫然と長期投与されている医薬品の適正使用ということに確かな方向が定められたように、記憶しています。岡 先ほど、海老原先生からEBMのお話が出ましたので、つけ加えさせていただきます。つい最近「臨床薬理の進歩」No.26、「癌治療の臨床薬理」の中で、胃癌のエビデンスをまとめてPK/PDを完成させるんだという研究の紹介を興味をもって拝見したんですが、そうしましたら、ちょうどこの頃、出版されたNatureに白血病についての研究成果が載っていたんですね。これらはまさに臨床薬理研究の目的とするところではな臨床薬理研究振興財団ー 30周年記念 座談会 薬物治療の進歩と臨床薬理学 ー 30年のあゆみ 33海老原 ご存じのように、昔は薬というものは効くか効かないかはっきりさせることが非常に難しかったのですが、最近は薬が効くか効かないか、さらに、二つの薬のどちらが、より優れているかということをはっきりさせることができるようになりました。近年、新しい薬がどんどん登場し、とくに微量で効果の強い薬が多くなりましたが、これにともなって、副作用の強いものが多くなり、使い方も大変難しくなってまいりました。医学の方ではEBM(evidence-based medicine)という言葉が盛んに使われるようになりましたが、これは、データあるいは証拠に基づいた医学と言うふうに訳されています。このエビデンスの構築には、臨床薬理学が大きな役割を果たすものと思われますが、そのへんのことも含めまして、岡先生に、お話し頂きたいと思います。岡先生は、本日のスピーカーの中では、ただ一人薬学関係の方ですが、いろいろと最近の薬の進歩についてもお話しいただきたいと思います。■■■ 臨床薬物動態の重要性 ■■■岡 これを契機にして、臨床では心臓病薬、中枢神経作用薬、抗生物質などの薬物動態が考慮されるようになりました。医学部では恐らく臨床薬理学講座が中心になって、また薬学部の方では、病院薬剤部が中心になって、臨床薬物動態を研究したり、実践したり、血中濃度を測定したりするようになりました。80年代後半ぐらいから、微量で本当に効く医薬品が出てくるようになって、血中濃度の概念はより一層重要なものになってきました。そのため厚生省(現厚生労働省)は、特定薬剤治療管理料の枠を広げ、免疫抑制薬であるシクロスポリンやタクロリムス、さらに耐性菌に有効な抗生物質バンコマイシンなどを新たに指定しました。これらはきわめて有用ではあるけれども、副作用も強く、危険でもある薬物で、血中濃度に見られる治療域と毒性域との差はきわめて小さいのですが、確かにそれは明確に存在しているということで、臨床薬物動態論がますます重要視されるようになってきたのだと思います。■■■EBM(evidence-based medicine)■■■財団法人最近の薬物治療の進歩と臨床薬理学が果たした役割

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