臨床薬理研究振興財団40年のあゆみ
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愛知県がんセンター 名誉総長公益財団法人 臨床薬理研究振興財団 評議員大野 竜三1640周年に寄せて 本財団と私とのお付き合いは30数年前の1982年に遡ります。その年度の研究奨励金応募主題は「免疫制御の臨床薬理」で、当時名古屋大学第一内科において急性白血病のBCG-CWS免疫療法を研究していた私は、先進米国の研究を視察するため、海外留学等補助金(ⅱ)海外視察補助に応募し、運良く採択されたのです。 翌1983年4月末からの2週間、全米4つの大学・研究施設を視察し貴重な情報を得ることができたことに加え、旧知の臨床腫瘍免疫学者の多くが新しく出現した奇病AIDSに取り組んでいるのを知りました。病原ウイルス同定前であり、訪問先の病院ではガウンを着用し長靴を履いて患者を回診しましたが、カルテを閲覧した際、その免疫不全の重症度と多様性には驚きを禁じ得ませんでした。急性白血病や骨髄移植後の重症免疫不全を経験していた私ですが、AIDSのそれは間違いなく遥かに重症であることを肌で感じました。 血液を介して伝播し血友病患者に多発していたことにより、日本でも早晩発生するに違いないと確信し、日本の医学界も早急に衆知・警告すべき新伝染疾患であると考察しました。帰国後、早速総説論文を執筆し、5月末には当時広く読まれていた総合医学週間誌「医学のあゆみ」に投稿しましたが、若造の論文では信用されなかったためか不採用でした。ところが11月になって「医学のあゆみ」社から突然電話があり、直ぐにでも掲載したいとのこと。日本初のAIDSが血友病患者に発症したらしいというマスコミ報道を受けてのことでした。 1983年11月に同誌に掲載された論文「Acquired immune deficiency symdrome(AIDS)」は、本疾患に関する最初の日本語学術論文となり、その後のエイズ裁判において周知時期のランドマークとなりましたが、もう少し早く掲載してくれていたら、多くの発症が抑えられた可能性もあったのにと残念に感じたことを、今も覚えています。論文の最後では本財団補助金に対する謝辞を述べたことは言うまでもありませんから、本財団の広報に多少は寄与したものと自負しています。 その後、2000年からは本財団の評議員を務めさせていただいており、この間、研究助成の選考委員も3回ほど務めました。白血病を中心とする造血器腫瘍の治療を専門とし、Japan Adult Leukemia Study Groupを創設して多施設共同治療研究に取り組んできた私には、臨床薬理の重要性は骨身に沁みています。本財団が過去40年に渡り日本の臨床薬理の発展に貢献されてきたことに、改めて敬意を表すると共に、今後も若手を中心に臨床薬理学に携わる研究者をサポートしていただくことを心から願っています。40周年記念誌に寄せて

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