Japan Research Foundation for Clinical Pharmacology東京薬科大学 名誉教授公益財団法人 臨床薬理研究振興財団 理事岡 希太郎1940周年に寄せて 私と財団の関わりは1998年の春に始まりました。それまでは年に1回の学術総会でしかお目に掛かれなかった著名な先生方に、直接お会いする機会が得られたのです。私自身のヒトを対象とする研究が良い方向に向かいました。そして薬学部ならではの臨床薬理学の方向も見えるようになりました。 財団から与えられた仕事は、研究助成事業の1つ、臨床薬理学の進歩に貢献する研究奨励金申請書を査読することでした。その仕事の難しさを実感し、やがて選び方の知恵を学ぶことができました。特に重視した点は、申請書に書いてある研究目的が達成されたなら、臨床薬理学がどう変わって、実地医療にどう影響するかということでした。言い換えれば、流行に倣うのではなく、流行を変える目をもつ研究者を選ぶことだったと思っています。 では私自身の研究の目を1つ紹介します。私が日本臨床薬理学会に入会した40歳の頃でした。北アメリカの麻薬製造工場の工員の間にパーキンソン病の発症が相次いだのです。やがて原因物質として、今では教科書にも載っている化合物MPTPが特定され、合成麻薬ぺチジンの副産物であると判明しました。しかしそこでまた新しい疑問が生じました。麻薬工場とは無縁の患者はどのようにして発症したのか?毒性薬理学の専門家は、「未知のMPTP類縁物質が内在している・・・それは何か?」と問いかけました。 間もなく複数の仮説がLancet誌に載りました。筆者は生化学と薬化学を専攻したお蔭でか、どの仮説も実在しないと直感して、別の仮説に気づきました。それを小論文にまとめてLancet誌の編集部に送りました。何の返事もないままに、ほとんど諦めていましたら、ある日送られてきた新刊に原文のまま掲載されていたのです。そして大分後になって、内在性物質Harmanがパーキンソン病の原因物質の1つであるとの論文が発表されました。横長に描いたHarman の化学構造を90度回転して縦に置くと、その90%がMPTPと重なるのです。 35年前の私の小論文は、縦のものを横にする、ただそれだけの産物でした。今では絶対に思いつかない発想です。物事が普通とは違って見える若い目が育つように、本財団の研究助成事業が発展的に継続することを期待して止みません。普通とは違う研究の目に期待する40年のあゆみ
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