臨床薬理研究振興財団40年のあゆみ
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第4回(平成23年度) 臨床薬理研究振興財団研究大賞 受賞者金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学(脳神経外科) 教授中田 光俊2640周年に寄せて 私は平成23年度に悪性脳腫瘍研究に対して研究大賞を受賞させていただきました。現在も脳神経外科医の立場から悪性脳腫瘍を対象として精力的に研究を進めています。 脳原発の悪性脳腫瘍である膠芽腫は単一の細胞レベルで脳に染み渡るように増殖します。脳が人間の高次機能を司る重要な臓器である以上、摘出範囲には限界があることから膠芽腫は他の臓器のがんとは異なり外科的手術での全摘出は不可能です。したがって膠芽腫の治療においては手術後の薬物療法が重要となります。現在、標準治療薬となっているアルキル化剤「テモゾロミド」や2013年に保険適応となった分子標的薬剤「ベバシズマブ」の投与のみでは根治に至らず、多くは2年以内に亡くなり5年生存率は10%です。 新たな化学療法を模索する中で、我々は既存薬剤に着目しました。市場に出回っている医薬品のほとんどは特定の疾患の治療を目的に開発され使用されていますが、その中には思いがけず膠芽腫に対して有効な薬剤が隠れているのではないかと考えています。この概念は“ドラッグリポジショニング”と言われ既存薬剤の適応拡大を狙った研究手法です。最大の利点として既存薬はすでに多くの毒性試験や安全性試験をパスしており、ヒトに投与するにあたって予想悪性脳腫瘍に対する新規薬物療法の開発―ドラッグリポジショニングの有用性―しない副作用を認める可能性は少なく短期間でしかも低コストで臨床試験が完遂できる点にあります。 また我々は、膠芽腫の根源は膠芽腫幹細胞であるとの仮説に基づき、ヒト膠芽腫手術検体から抽出された膠芽腫幹細胞を制圧対象としました。膠芽腫幹細胞に対して抗増殖効果を有する薬剤を1,300種類の既存薬剤の中からスクリーニングしました。こういった実験は宝探しと同じで、とてもエキサイティングで楽しいものです。研究の醍醐味と言っても良いでしょう。これまでに増殖抑制効果を指標に1次スクリーニングを行い、1,300種類の薬剤は89種類に絞られ文献検索で報告済の薬剤が除かれ3種類の薬剤が残りました(図)。現在、効果の高い1種類の薬剤に絞り、検証実験を進めています。この薬剤は古くからある安全性の高いお薬で、分子量が低く脳血液関門も通過可能です。半減期が長いため週に1回の投与で良い薬だということが分かっています。この薬が何故有効なのかそのメカニズムを調べ、本当に膠芽腫に有効であるかをマウスモデルで確認しています。 ドラッグリポジショニングは逼迫する日本の医療経済に対する貢献も大きいと考えられます。例えば膠芽腫の外来化学療法で標準治療薬をすべて使用すると月に100万

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