臨床薬理研究振興財団40年のあゆみ
30/132

第5回(平成24年度) 臨床薬理研究振興財団研究大賞 受賞者慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 講師内田 裕之2840周年に寄せて この度は、臨床薬理研究振興財団設立40周年記念誌に寄稿させて頂く機会を得、身に余る光栄に存じます。第5回研究大賞を受賞したご縁で今回の執筆機会を頂きました。臨床薬理研究振興財団には現在も御助成頂いており、心より御礼申し上げます。 大賞を頂いた研究の内容と現在私が取り組んでいる仕事についてご紹介いたします。統合失調症の治療において、我々臨床医は抗精神病薬の経口用量を調節し、治療効果と副作用のバランスをとるよう日々努力を重ねています。しかしながら、薬物動態には個人差が大きく、経口用量から治療効果や副作用を予測するのは、日常臨床では困難な状況です。そこで我々は、治療に必要な経口用量を個人別に予測するモデルを作成しています(図1)。そのなかで、経口用量から血中濃度を予測するのに用いるのがPopulation Pharmacokinetics(PPK)法です。この方法は、従来の血液動態学における手法と異なり、通常の臨床場面において得られた薬物の血中濃度、年齢、人種、性別などの情報をもとにモデルを作成できます。理論上、各個人の薬剤の末梢血中動態を正確に推測することができ、さらには任意の経口用量による任意の時点での血中濃度を予測することができます。また、PPK法により予測された血中濃度を、我々が開発したモデルに投入することにより、抗精神病効果を予測するドパミンD2受容体占拠率を推測し、その先の治療効果も予測できると考えています。これが可能になれば、各個人において、抗精神病薬の血中濃度さえ測定できれば、処方変更後のドパミンD2受容体占拠率、またその効果を予測できます。逆に、目標のドパミンD2受容体占拠率を達成するために必要な血中濃度、そして経口用量を予測することもでき、試行錯誤に基づく用量調節からの脱却が可能になります。研究大賞を頂いたのはこのPPK法を用いた血中濃度予測研究です。50名の患者様にご参加いただき、PPK法で血中濃度を経口用量変更前に高い精度で予測できることを明らかにしました。現在は、この一連のモデルを使用して実際に用量を調整する無作為化比較試験を実施しています。こうした試みがより安全かつ効率的な統合失調症の薬物治療に結びつくことを目指して、日々精進しております。最後に若手研究者の方々へのメッセージです。自分の行っている研究が、短期的でも長期的でも良いので、世の中の役に立つのか(立ちうるのか)を常に自問自答して臨床薬理研究振興財団への御礼と現在の研究の取り組み

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る