第6回(平成25年度) 臨床薬理研究振興財団研究大賞 受賞者大阪大学大学院薬学研究科 分子生物学分野 教授水口 裕之3040周年に寄せて 私は大学院修了以来、遺伝子導入技術の開発、特に、安全性・有効性に優れた改良型アデノウイルスベクターの開発研究を進めてきました。米国留学中(1997〜1998年)に開始したアデノウイルスベクターに関する研究は、in vitroライゲーションに基づいた簡便なアデノウイルスベクター作製法の開発(クロンテック社よりAdeno-X expression systemとしてキット化)や、感染域の制御が可能なファイバー改変アデノウイルスベクター(ウイルス表面タンパク質のファイバーを改変)、マイクロRNAによる遺伝子発現制御機構を付与したアデノウイルスベクターの開発等、現在に至るまでその改良や応用研究を行っています。一方で、開発した改良型アデノウイルスベクターの応用の一例として、細胞分化関連遺伝子をアデノウイルスベクターを用いてES細胞や間葉系幹細胞等の幹細胞に導入し、細胞分化の制御に関する研究を行っていました(当時はまだiPS細胞は発明されていませんでした)。このような折、山中伸弥教授らが、2006年にマウスiPS細胞を、2007年にヒトiPS細胞の作製を発表いたしました。 そこで、当時私が在籍していた独立行政法人医薬基盤研究所(現在の国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)の関係者ともdiscussionを重ね、日本発の技術であるヒトiPS細胞を創薬研究に役立てたいということで、製薬業界からの需要(期待)の大きい肝細胞をターゲットにし、iPS細胞研究を開始いたしました。医薬品候補化合物の開発中止原因のうち、ヒトにおける「毒性の判明」が占める割合は30%程度にも上り、肝毒性はその主要なものであります。現在は、初代培養ヒト肝細胞を用いた毒性評価が行われていますが、種々の問題点(高価であり、同一ロット細胞を安定供給できないこと、ロット差が大きいこと等)があり、ヒトiPS細胞由来分化誘導肝細胞がこれらの問題を克服した新たな細胞評価系として期待されています。当時は肝細胞への分化誘導技術が未熟であり、いかに効率良くヒトiPS細胞から肝細胞へ分化誘導するかという問題が最重要研究課題でありました。そこで我々は、上述の改良型アデノウイルスベクター技術を用いることにより、ヒトiPS細胞から肝細胞への高効率分化誘導技術開発に取り組み、飛躍的な肝細胞への分化効率の向上に成功しました。それまで行っていたアデノウイルスベクターの開発研究や、その応用としての各種幹細胞の分化制御研究が、大いに役立ったわけであります。ちょうどそのような時期に、臨床薬理研究振興財団より『ヒトES/iPS細胞由来成熟肝細胞の創出と遺伝子導入技術開発とヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導研究およびその応用
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